いつも決まって、ピアノの曲を聴いてめそめそ泣くだけの彼女は、現実を箇条書きにして、ただ現実のまま受け入れようとしていた。
晴天の下で憧れのアーティストと笑顔で握手を交わした、真っ白な服をきた素敵なカップルは離れ離れになってしまった。
満月の夜に、わたしを丸ごと肯定してくれたあの人は、いまどんな絵を描いているんだろう。
夜空の下でひたすらに本を読んでいた、名前も知らない人が、あの夜の演奏を聴いて一番心を打たれていたかもしれない。
誰も知らない、本人さえ覚えていないかもしれないその場面を、いつまでも考え続けている。